公開日:2026.03.26
脱炭素経営とは、気候変動対策(≒脱炭素)の視点を織り込んだ企業経営のことです。企業が脱炭素経営に取り組むメリットや、基本的な進め方についてまとめました。脱炭素経営の実現に向けた課題と、その解決策とともに解説します。
近年、脱炭素経営が企業にとって避けて通れない重要な課題となりつつあります。日本は2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)の実現を目標として掲げており、その中間目標として2030年度に2013年度比で46%削減を目標として掲げました。さらに野心的な目標として、2035年度に60%、2040年度に73%削減の目標も設定されています。これらの目標を着実に達成していくためには、民間事業者による協力が欠かせません。
この記事では、企業が脱炭素経営に取り組むメリットや基本的な進め方、脱炭素経営の実現に向けた課題についてわかりやすく解説しています。課題解決につながる「脱炭素アドバイザー」の育成にもふれていますので、ぜひ参考にしてください。
【 目次 】
脱炭素経営とは、気候変動対策(つまり脱炭素)の視点に立った企業経営のことです。環境保全に向けた企業の取り組みは、従来CSR(企業の社会的責任)活動の一環として位置づけられる傾向がありました。あくまでも数ある活動のうちの1つと捉えられていた面があったことは否めません。
一方、脱炭素経営では気候変動対策を経営上の重要課題として位置づけ、全社をあげて取り組むことが前提となっている点が大きく異なります。事業を持続可能なものにし、リスク低減と成長を両立させるためにも、脱炭素経営の実現が求められているのです。
脱炭素経営と関わりの深い用語として、TCFD・SBT・RE100が挙げられます。
TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)とは、気候変動によって企業が被るリスクと、得られる機会を財務情報として開示することを推奨する国際的な枠組みのことです。企業にガバナンス・戦略・リスク戦略・指標と目標の4つの観点から開示を求めることにより、適切な判断にもとづく投資判断を支援します。
SBT(Science Based Targets)とは、「世界の気温上昇を1.5℃または2℃未満に抑える」というパリ協定の目標と整合する温室効果ガス削減目標を、企業が科学的根拠にもとづいて設定するための取り組みのことです。SBT認定を受けることにより、企業価値の向上や事業機会の創出、サプライチェーンの強化といったメリットを得られます。
RE100(Renewable Energy 100%)とは、企業が事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーでまかなうことを目指す国際イニシアチブです。具体的には、太陽光発電設備の導入や電力会社との再エネ電力の供給契約、環境価値証書の購入などが挙げられます。これらの取り組みに積極的な姿勢で臨む企業は、環境経営に前向きな事業者としてステークホルダーから高く評価される可能性があります。
脱炭素経営が求められている背景には、温室効果ガス削減目標の達成が決して容易ではないことが挙げられます。民間企業による協力なくして、削減目標をクリアするのは現実的ではありません。
特に近年注目されているのがサプライチェーン排出量の削減です。サプライチェーン排出量はCO2排出量全体に与えるインパクトが大きいとされることから、早急な排出量算定とホットスポットの特定、さらには削減に向けた取り組みが求められています。
脱炭素経営の実現に向けた取り組みを、企業は義務的に引き受けるのではなく、事業上のメリットを得られる取り組みとして捉えることが重要です。企業が脱炭素経営に取り組む主なメリットとして、次の5点が挙げられます。
1つめのメリットは、市場における競争優位性の確保につながることです。近年、脱炭素経営の推進に向けた取り組みの有無を注視している企業や投資家が増えつつあります。競合他社に先駆けて取り組むことによって、原材料や部品等の調達、資金調達などの面で優位に立てる可能性があるでしょう。新たな取引先の獲得につながるほか、既存の取引先との取引拡大などにも資する効果が期待できる取り組みといえます。
脱炭素経営の実現に向けた取り組みは、エネルギーコストの削減にもつながります。省エネ設備の導入や工程の改善により、結果的に光熱費や燃料費が削減される可能性は十分にあるからです。エネルギーコストを無理なく削減できれば、利益率の向上をもたらす効果も期待できます。脱炭素経営の推進は、高利益率体質の組織を築いていく上で有効な取り組みといえるでしょう。
ステークホルダーエンゲージメントの向上につながることも、脱炭素経営に取り組むメリットの1つです。取引先や投資家、金融機関などはもとより、自社の従業員にとって社会貢献度の高い企業に勤めていると自認することは、誇りと自信につながります。こうした従業員満足度の高まりがモチベーションアップを促す一因となり、結果として業績伸長をもたらす可能性もあるでしょう。
脱炭素経営の推進は、優秀な人材を確保する上でも重要な取り組みです。Z世代の7割以上が環境配慮型の企業に魅力を感じているとの調査結果もあり、求職者にとって応募先企業の環境保全に対する取り組みは重要な判断材料の1つとなりつつあります。問題意識が高く、社会課題の解決に取り組む意欲のある人材を採用するには、脱炭素経営への取り組みが今後ますます重要な要素となっていくでしょう。
脱炭素経営の実現に向けた取り組みは、さまざまな補助金・助成金の対象となるケースが少なくありません。下記は、令和8年度概算要求における地球温暖化対策に関する補助・委託事業の一例です。
・ペロブスカイト太陽電池の社会実装モデルの創出に向けた導入支援事業
・民間企業等による再エネの導入及び地域共生加速化事業
・業務用建築物の脱炭素改修加速化事業
・Scope3排出量削減のための企業間連携による省CO2設備投資促進事業
・脱炭素技術等による工場・事業場の省CO2化加速事業
・商用車等の電動化促進事業
・環境配慮型先進トラック・バス導入加速事業
こうした補助金・助成金を活用することで、設備投資の負担を軽減しつつ脱炭素経営を推進し、事業のいっそうの成長を目指せる点が大きなメリットです。
脱炭素経営の取り組みは、具体的にどのような手順で進めればよいのでしょうか。基本的な進め方を紹介します。
第一に取り組む必要があるのは情報収集です。カーボンニュートラルの実現に向けた世の中全般の動きをはじめ、地域経済や業界内の動向、バリューチェーンにおける具体的な取り組みについて、それぞれ最新情報を収集しましょう。
各自治体のWebサイト等では、地域企業の取り組み事例が紹介されていることがあります。他社の取り組みも参考にしながら、現状把握を進めていくことが大切です。
次に、収集した情報を元に自社の方針を検討していきます。脱炭素経営の実現に向けた取り組みは多岐にわたるため、自社が現実的に実践できることや提供できる付加価値について、おおよその方針を固めておくことが重要です。
どのような方針を定めるべきか迷う場合には、脱炭素経営をテーマとするセミナーや講演会などに参加することでヒントを得られる場合もあるでしょう。
次に、自社のCO2排出量を算定します。算定に用いる計算式は次のとおりです。
CO2排出量=活動量×係数
活動量とは、電気や燃料などの使用量のことを指します。また、係数とは活動量あたりのCO2排出量のことです。
日本商工会議所では、ExcelでCO2排出量を自動計算できる「CO2チェックシート」を無償で提供しています。こうしたツールを活用してCO2排出量を可視化するのもおすすめの方法です。
算定した現状のCO2排出量を踏まえて、削減ターゲットを特定します。削減ターゲットの特定とは、CO2排出量の多い施設や事業所などを把握した上で、削減に取り組むべき対象を絞り込んでいくことです。
一般的に、CO2排出量が顕著に多い施設・事業所ほど、削減に向けた施策が効果を発揮しやすい傾向があります。自社のCO2排出量の総量に占める割合が高い箇所を特定し、削減ターゲットの候補としてピックアップしましょう。
削減ターゲットについて、CO2排出量を「時系列での比較」「事業所・設備間での比較」「適正値との比較」の観点から分析していきます。
時系列の比較とは、長期的に見た場合にCO2排出量にどの程度の変動が見られるかを確認することを指します。たとえば、繁忙期と閑散期の排出量の差や、季節ごとの変動などを確認しておくことで、長期的に削減ターゲットにすることの妥当性を判断しやすくなるでしょう。
事業所・設備間での比較においては、類似する事業内容や設備の用途をグルーピングして比較していきます。事業内容や規模がほぼ同じであるにもかかわらず、CO2排出量に顕著な差が見られる場合は、その原因を特定しておく必要があるでしょう。
適正値との比較とは、設備や機器の標準的なCO2排出量と照合することを指します。適正値から大きく外れているようなら、設備・機器の設定値や劣化状況などを確認しておくことが大切です。
環境省では、中小規模事業者向けに「脱炭素経営導入ハンドブック」を提供しています。削減計画の策定方法についても詳しく解説されていますので、こちらもあわせて参考にしてください。
参考:環境省|中小規模事業者向けの脱炭素経営導入ハンドブック Ver.1.0
削減計画に沿って活動を実行していきます。実行後は効果測定を行い、目標との差異を定量的に把握した上で改善策を講じていくことが大切です。改善後は再び効果測定を実施し、改善効果が表れているか、表れていない場合は原因がどこにあるのかを検証しましょう。
削減効果が顕著に表れている事例があれば、成功要因を分析しておくことも重要なポイントです。効果的な排出量削減策を他の施設や事業所にも取り入れ、適用範囲を拡大していくとよいでしょう。なお、環境省は脱炭素経営を導入した企業の事例集を公開しています。他社の事例を参考に、効果的な改善策を模索するのも1つの方法です。
脱炭素経営の実現に向けた取り組みの過程で、さまざまな課題が浮上することが想定されます。ここでは、特に直面しやすい2つの課題とその対策について解説します。
脱炭素経営は部門単位で取り組むものではなく、全社の経営方針として盛り込むべきものです。たとえば、数あるプロジェクトの1つに留まってしまったり、限られた担当者だけが熱心に取り組んだりしているような状況を招かないようにする必要があります。
対策としては、「トップダウンによる方針策定」と「ボトムアップによる継続的な取り組み」の両輪で進めていくのがポイントです。まずは経営層が脱炭素経営に向けた取り組みの重要性を十分に認識し、経営方針に盛り込んだ上で、継続的な取り組みにできるよう体制を整えていくのが望ましいでしょう。
温室効果ガスの排出量策定や削減目標策定、計画立案と実行、効果測定といった一連の取り組みには、専門的な知見が求められます。気候関連情報の開示ポイントや、企業が社会に示すべき取り組み・姿勢に関する正確な知見を備えた人材が不可欠です。
こうした専門知識を備えた人材を外部委託などで確保する方法もありますが、中長期的には社内で人材を育成していくのが望ましいでしょう。将来的には脱炭素経営の取り組みを社内で完結できるよう、人材育成計画を策定してみてはいかがでしょうか。
脱炭素経営に関する基本的な知見を備えた人材の育成には、「グリーンマイスター検定」をおすすめします。グリーンマイスター検定は、脱炭素アドバイザーの認定資格です。試験合格者は「環境省認定 脱炭素アドバイザー」として活動できます。
グリーンマイスター検定に合格することで、環境や脱炭素に関する基礎知識を体系的に習得できます。気候変動や温室効果ガス、脱炭素の考え方など、現代のビジネスで必須となる環境リテラシーを基礎から学べることが大きなメリットです。
脱炭素に関する社員教育において、効率的に学習できるツールも提供されています。正確な知識に根差した人材教育を実践していきたい事業者様におすすめです。
ESGや環境対応に貢献できる人材の育成につながることもメリットの1つです。脱炭素やESG、情報開示といった重要なテーマを理解し、社内における環境活動の取り組みを推進していくための基礎力を備えた人材を育成できます。
脱炭素社会の実現に向けた能動的な提案ができる人材が社内で育てば、自社のビジネスを変革する大きな力となっていくでしょう。単に知識の習得に留まらず、具体的な提案や貢献につながる人材を育成したい事業者様におすすめです。
グリーンマイスター検定合格者は、環境分野に強い人材として信頼が高まります。資格取得により、学習姿勢や専門性を対外的に示す効果が期待できるからです。社内外からの信頼向上につながるほか、携わる業務の幅を広げるきっかけにもなるでしょう。
こうした専門知識を備えた人材を積極的に育成していることは、持続可能な未来への責任ある取り組みを組織的に実践していることの証明になります。環境分野に強い企業への第一歩として、脱炭素アドバイザーの育成に注力してみてはいかがでしょうか。
ライター:株式会社ネオマーケティング